東京大学大学院・総合文化研究科・超域文化科学専攻
文化人類学コース 開講授業 [2024年度]
以下では文化人類学コース専任・兼任教員による授業を、担当教員名の五十音順で掲載しています。
以下の科目のほか客員教員や非常勤講師の授業も常時開講されています。2022年度大学院授業では加藤幸治先生、國弘暁子先生、近藤祉秋先生、松嶋健先生、ラム・スンメイ先生に授業をご担当いただいています。
「S1」はSセメスター(春学期)第1ターム開講科目、「S2」はSセメスター第2ターム開講科目、「A1」はAセメスター(秋学期)第1ターム、「A2」はAセメスター第2タームの意味です。
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文化人類学コース所属の教員と大学院生が集まり、大学院生が順に個別発表を行なっていく全体ゼミ。その目的は、大学院生各自が議論と対話の中で自身の研究を発展させてゆくことであり、また、自身の研究を多様な視点(狭義の文化人類学の枠には必ずしもこだわらない)から眺め直しつつ、しだいに強靭な思考力を身につけてゆくことである。
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The key question to be explored in this course is: How do we think anthropologically about the socio-technical systems—e.g. platforms and knowledge infrastructures—that have come to mediate so many of our relationships? We will work collaboratively to read and identify key texts in this field.
宗教と経済は相反するものとして捉えられがちである。たとえば現代日本において宗教が「胡散臭い」と語られるとき、その背景には聖職者や宗教組織者による「あくどい」資金集めや、莫大な財の蓄積への批判があることが多い。宗教に関わる以上、カネの問題に拘泥すべきではない、というわけである。このように宗教を経済とは無関係なある種の「聖域」とみる傾向は、宗教研究にもみられる。つまり宗教研究においては、新興宗教教団の集金システムやビジネスモデルの真相解明といったジャーナリズム的な研究を除けば、宗教の経済的な問題を取り扱っている研究は未だに少ない。しかし現実の宗教は、どこまでも経済との密接な関わりの中にある。ある宗教組織が掲げる理想がいかに高邁なものであったとしても、その理想を実現するためには、ヒト・モノ(カネを含む)といった資源を獲得・管理・使用するという営み、つまり経営が必要不可欠である。
それでは宗教組織は実際にどのように経営されているのか。そこにはどのような特徴や困難があるのか。この授業ではこの問題を、主に日本とミャンマーの仏教寺院(僧院)を事例として検討する。またその前提として、「宗教」「組織」「制度」「経営」「仏教」といった概念自体の定義も試みる。こうした作業を通じて、このような研究(暫定的に宗教経営論と名付ける)がどのような可能性をもちうるのかを共に考える。
なお、この授業は全7回のS1ターム科目である(1単位)。授業は講義とディスカッションを並行しながら進めていく予定である。
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近年の歴史学研究では、身体や感情への関心が高まっている。この授業では、16~19世紀ヨーロッパを主な対象に、歴史および歴史人類学における感情と身体に関する英文テクストの講読を行う。
この授業は学部後期課程「専門英語」としても開講されているため、講読の対象は原則として英語文献である。感情史に関する基礎的な議論を学びつつ、英語で書かれた学術論文を正確に読み解く能力を習得することを目標とする。
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民俗学を他から独立した学問分野としてとらえるならば、その視点や方法においてどのような特徴をもっているかが問題となる。この入門ゼミでは、民俗学がどのような学問であるかをその視点の特徴を中心に概観する。
民俗学は世界中に学会や研究者をもつ国際的な学問分野であり、他の人文学と同様に、人間がどのようなものであるかを考えようとしてきた。その意味では他の学問分野と変わるところはない。一方で、それぞれの国や地域における国民国家形成やナショナリズムの高まりの過程で生み出されてきた、ヴァナキュラーな思想体系としての側面もあわせもっている。この授業では、上記のような学問的特徴を前提として、日本の民俗学を中心にすえてその思想的特徴をとらえつつ、各地域で育った複数の民俗学が交差するところにも着目する。
これまでとは異なる形で「民俗学とは何か」を概論することが、授業担当者の最終的な目標であり、受講者とディスカッションをしながら考えを深めていきたい。
※ターム科目(文化人類学コースの多くの科目がターム科目として提供される)
※2022年、2023年に開講された入門ゼミとは異なる内容で実施される。
日本の民俗学では、「経済」の用語で研究対象をとらえることはあまりなかった。それに近いのは「生業研究」というジャンルであるが、これはいわば「仕事=労働」に関する民俗学的研究であり、アメリカ民俗学ではoccupational folkloreとしてくくられるジャンルと対応する。経済を「仕事」という人間の身体的営みに近いところで扱おうとする民俗学のヒューマニズムが経済や社会の理解に一石を投じてきたことは確かであるが、一方で、経済のうちの一部に焦点化され過ぎていることについては不満が残る。
しかし、あえて生業や仕事ではなく「経済の民俗学」という言葉づかいを導入して領域を再設定するならば、資源や財の所有や共有についての分厚い研究蓄積や、儀礼における贈与交換の研究などが視野に入る。この方面への関心は、海外の民俗学と比較してみるとわかることであるが、社会人類学や農村社会学との協働によって独特に発展してきた日本民俗学の特徴をつくり出してもいる。
この授業では、このような特徴をふまえながら、「経済の民俗学」という新たな領域化によって可能になるものについて検討する。
※ターム科目(文化人類学コースの多くの科目がターム科目として提供される)
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「民族」を「民族」として論じることが自己撞着的で本質主義的であることは、すでに多くの論者によって指摘されている。このゼミでは、「民族」を所与の説明原理としてブラックa2ボックス化することなく、いかにして「民族」にまつわる(とされる)現象を論じることができるかを、文献を読みながら討議する。なお主要な検討対象としては、いわゆる「華僑・華人」に関する諸研究を想定しているが、それ以外の領域に関心がある学生の参加ももちろん歓迎する。
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This lecture series provides an overview of what the academic genre of ethnography has achieved over the past century or so. Although ethnographic monographs has been also written by non-anthropologists, this lecture focuses on the work of sociocultural anthropologists’ endeavors. Rather than discussing the possibilities and problems of ethnography abstractly, the aim of this course is to provide a perspective on the scholarly activity of ethnography by introducing two or three ethnographies (mostly written in English, some in Japanese) each time critically, along with the historical background.
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この授業では、経済人類学の基本的な概念と発想について、古典的な研究から最近の研究までを概観していきます。この作業を通じて、皆さん自身が経済的な現象について人類学的に分析していく際のツールの一覧を提供することを目的としています。
人間の経済活動にどのようにアプローチするのかは、近代人類学の成立当初から主要な課題のひとつとなってきました。人類学における他の下位分野の議論の展開と関連しながら、また、経済学を始めとする隣接分野との緊張関係のなかで展開してきた経済人類学は、(1)世界各地で日常的に行われている具体的な物のやり取りを、(2)時間的・空間的に広い文脈に位置づけて考えることによって、(3)人間の経済活動に関する代替的な見方を繰り返し提出することに成功してきています。この成功は、贈与や市場や貨幣や負債についての経済人類学における議論が、人類学の枠を超えて繰り返し応用されてきていることにも現れています。
この授業では、マルセル・モース、カール・ポランニー、クリストファー・グレゴリー、シドニー・ミンツ、デイヴィッド・グレーバーといった論者の議論の要点を確認しながら、「実体主義的アプローチの可能性と批判性」、「生産と再生産」、「全体的社会的事象と人格的交換」、「貨幣と文化」、「市場と配置」、「ケアと福祉」、「ポリティカルエコノミーとサプライチェーン」といったテーマについて議論するための、初発の見取り図を提供することを目的とします。
※ターム科目(2022年度より文化人類学コースの多くの科目がターム科目として提供される)
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文化人類学では近年、従来のように人間のみに焦点を当てて「文化」や「社会」の問題を論じるのではなく、人間とそれを取り巻くもの(生物・非生物・人工物)の関係を考察していく見方が重要になってきている。文化人類学の外でも大きな注目を引いてきたティム・インゴルドやエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロなどの人類学者の著作(ブリュノ・ラトゥールの科学人類学もこれに加えることができる)や、マルチスピーシーズ民族誌と呼ばれる流れがそれに当たる。
「自然の人類学」は、こうした流れの全体をまとめた分野名である。なおここで「自然」とは、人間と自然を二項対立として捉えるのではなく、むしろ、すべての人間的・人為的なものが「自然」に含まれると捉える。したがって、論理的に言えば、従来文化人類学が扱ってきた文化・社会の問題もそこに内包されるということができる。
このS1タームの授業の目的は、「入門ゼミ」としてこの「自然の人類学」のもっとも特徴的な部分を示すことである。より具体的には、いわゆる存在論的人類学を中心に、生態人類学、マルチスピーシーズ民族誌等(場合により民族誌映画なども)を扱っていく。授業形態としては講義と演習を混ぜ合わせて行っていく予定である。
なお、この授業は、内容的には、S2タームの「文化人類学特論II-A」に連続してゆき(別途登録が必要)、こちらのS2ターム科目では、「自然の人類学」の現代的展開として「garden/gardeningの人類学」という実験的なテーマを取り扱う。もちろんS1タームのみの受講も可能である。
※この授業は後期課程との合併授業です。
gardenとは「庭」であり「菜園」でもある。またgardeningとは、本来的には、人間と植物(および自然)が出会う行為であり、人類が最初に植物を育てた時、それは農耕というよりもgardeningと呼ぶにふさわしいものだったであろう。
例えばアマゾンの密林のように、一見手つかずの自然のように見える場所も、実は先住民の手によって広く深く改変されてきたのであり、そうすると広大なアマゾニアの自然は「先住民の庭」であったということになる。一方、面白いことに、当のアマゾン先住民自身は、アマゾンの森には「森の主」のような人間とは異なる種類の「人々」が棲んでいて、それらが密林の動植物を育てているのであり、つまり密林は「彼らの庭」であると考えてきた。こうしてみると、garden/gardeningは、近代的農業によって目を曇らされてきた私たちと植物の関係を新しい角度から見直すために役立ちうるテーマであり、文化人類学において近年発展してきた「自然の人類学」にとっても重要なテーマであると言える。
この授業では、文化人類学の内外から文献を選びつつ、狩猟採集民・焼畑農耕民の植物との関係から現代都市における人間と自然の関係まで、幅広い視野から人間にとってgarden/gardeningとはであるかを考えてみたい。
なお、この授業(S2ターム)はS1ターム科目の「自然の人類学ー入門ゼミ」(文化人類学特論II-A)に続けて実施する。S1ターム科目を受講せずにこの科目のみ受講することも可能だが、その場合は、拙著『イメージの人類学』の第6章〜第9章を事前に熟読し、その内容を把握していることを参加の条件とする。
※この科目は後期課程との合併授業です。
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