大学院授業[2010]

東京大学大学院・総合文化研究科・超域文化科学専攻

文化人類学コース専任教員 開講授業  [2010年度]

船曳建夫 博士論文 Writing-Up セミナー

文化人類学コースの博士論文を書き上げるためのセミナー。 


山下晋司 人の移動、多文化主義、人権:応用人類学のパースペクティブ

グローバルな人の移動の加速化のなかで、国民国家の境界が揺らいでいる。そうしたなかで国家と民族・文化の関係も再構成される。この授業では、とくに現代日本社会に焦点をあてつつ、移民、多文化主義、人権などのテーマについて、応用人類学の観点から検討する。同時に、そのような観点から、現代を生きる人々の生存戦略とライフスキルについても議論する。 [一覧に戻る]


木村秀雄 コモンズ論のためのゲーム理論

冬学期に扱うコモンズ論の準備のために、ゲームの理論の基本的部分を固めておく。


木村秀雄 コモンズ論を読む

ノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロムをはじめとするコモンズに関する基本的な文献を読みなおしてみよう。私の専門が南米アンデス農民社会論なので、それに引きつけた議論になるかもしれないが、コモンズに関する議論の基本をおさえてみたい。担当教員もこの分野の専門ではないので、受講生と一緒に勉強するつもりである。


川中子義勝 聖書の思想――ロマ書を読む

キリスト教思想の形成やその歴史・伝統が問い返されるとき、立ち帰っていく処はつねにパウロとその「ローマ人への手紙」であった。今回は、毎回1章くらいテクストを丹念に辿りながら、その内容を跡づけていく。ギリシャ語の知識は特に前提としない。むしろ聖書やキリスト教思想へと導入することをも意図している。キリスト教思想史から、ルター他の宗教改革者の注釈書や聖書講義、また19世紀自由主義を20世紀神学へと転換したバルト『ロマ書』などを適宜参照していく予定。内村鑑三やアガンベンなど、参加者が自らの関心を交えることも可能であろう。


川中子義勝 聖書の思想――内村鑑三をめぐって(木下尚江)

日本の文化的土壌とキリスト教告知の関係を中心に検証している。明治から昭和に至る期間、内村鑑三と、彼をめぐる人々を扱いつつ、信仰や真理観の受容と伝達・継承の問題、また国家や時代への対峙の問題を見ている。西欧的偏差を被った聖書的世界観と日本的伝統の接続のあり方がつねに問われるが、今回は、「木下尚江」を中心に据えて、その日本の国家形成に対する発言や社会批判、またその婦人問題への取り組みなどを主題として扱う。同時代の他のキリスト者との関係も参照していく予定である。 


岩本通弥 現代民俗学の射程―オーラル・データ利用の関係構築に向けて

戦後ドイツ民俗学転換の起点となった、ヘルマン・バウジンガー『科学技術世界のなかの民俗文化』(河野眞訳、文楫社、2005年、原典1961年、第二版1986年の訳)を、購読する。 戦後民俗学の新たな定義は、1970年のファルケンシュタインでのドイツ学会で示された。上記の書は、それを惹起した、ロマン主義的な「連続性」に基づいた、従前の民俗学の基本認識を、現象学的観点から根本から問い質した、現代民俗学にとっての原点である。文化人類学とは異なり、専ら文明社会を対象化してきた民俗学の特徴や可能性を、読み取ることを目標とする。 9月には日本民俗学会の主催で、ドイツ・ハンブルグ大学のアルブレヒド・レーマン教授を招聘し、「オーラルヒストリーと〈語り〉のアーカイブス化に向けて―文化人類学・社会学・歴史学との対話」と題したシンポジウムを開催する。ハンブルグ大学ではレーマンが主導して「日常の語り」アーカイブが設立されているが、彼は「日常の語り」やライフヒストリー(ライフヒストリーでは非日常的な「経験」が物語化される)の集積・解析を通し、「意識分析」の方法を構築しようとしている。 このレーマンの方法を理解する上でも、バウジンガーの著作は原点であり、その精読は新たな視角をもたらそう。


岩本通弥  現代民俗学の射程―オーラル・データ利用の関係構築に向けて 

前学期に引き続き、戦後ドイツ民俗学転換の起点となった、ヘルマン・バウジンガー『科学技術世界のなかの民俗文化』(河野眞訳、文楫社、2005年、原典1961年、第二版1986年の訳)を、精読する。 戦後民俗学の新たな定義は、1970年のファルケンシュタインでのドイツ学会で示された。上記の書は、それを惹起した、ロマン主義的な「連続性」に基づいた、従前の民俗学の基本認識を、現象学的観点から根本から問い質した、現代民俗学にとっての原点である。文化人類学とは異なり、専ら文明社会を対象化してきた民俗学の特徴や可能性を、読み取ることを目標とする。 加えて、アルブレヒド・レーマンらが「日常の語り」研究に至った、その後の関連論文も講読する。近年、日本でも「語り」やオーラル・データが、民俗学や口承文芸学のみならず、社会学や歴史学、あるいは質的心理学等でも着目され、利用されているが、近似した手法を採用しながらも、相互の学問領域では学際的な研究交流は、ほとんどみられない。レーマン教授らを招聘して、2010年9月20日に開催される、日本民俗学会主催のシンポジウム「オーラルヒストリーと〈語り〉のアーカイブス化に向けて―文化人類学・社会学・歴史学との対話」は、その転機となるだろう。各学問領域のオーラル・データの利用に関する理論も、参照しながら、議論を深めたい。 


福島真人 ライフサイエンスの政治社会学

今学期は、現代社会に莫大な影響を与えているライフサイエンスと社会のかかわりのいくつかの側面について、ラボラトリ研究やゲノム研究のインパクトといった観点を中心にしながら観察する。特に科学社会(人類)学の分野からの関心では、実験科学としてのライフサイエンスへの関心が、その後の科学社会学に大きな影響を与えているという点に鑑み、L.フレックに代表される科学論や、ゲノム研究の社会学、さらに日常レベルでの生物概念といった問題を取り上げる。演習の後半では、これらがグローバルな文脈でどのような意味を持つか、そのガバナンスや国際協働といった側面にも触れる。


福島真人 ガバナンス概念の再検討

今学期は最近多くの分野で使われるガバナンスと言う概念がもつ機能と問題点を、ミクロの共同作業の分析から、マクロの政治システムまで、いくつかの理論的スケールをまたがって比較検討することを目的とする。 


木村忠正 文化人類学リサーチ・デザイン

この授業は、質的調査、量的調査を専門的に行うための基礎を修得し、具体的なリサーチデザインを立案、実施に向けた作業を行うことを目的とする。文化人類学の方法論的基盤であるフィールドワークは1980年代から再考を余儀なくされている。それに対して、人文主義的方向性での議論も多いが、担当者は、質的調査・量的調査を組み合わせ、一定の構造化、定式化も含み込んだ調査研究法(定性・定量融合法(mixed methods))への取り組みの必要性を主張している。本授業はそうした方法論を念頭に置きながら、専門的質的調査、量的調査の基礎を修得してもらうことを目的とする。


木村忠正 情報ネットワーク研究と文化人類学(I) 

1990年代半ば以来、インターネット、移動体通信の急速な革新と普及に伴い、情報ネットワーク研究が、文理問わず、様々な分野で広汎に展開されている。担当者は、文化人類学の観点を活かしながら、情報ネットワーク研究に取り組んできた。この授業では、社会科学の分野における情報ネットワーク研究の基礎を学び、文化人類学、エスノグラフィーの果たす役割、具体的な研究プログラムを考える。


木村忠正 情報ネットワーク研究と文化人類学(II)

1990年代半ば以来、インターネット、移動体通信の急速な革新と普及に伴い、情報ネットワーク研究が、文理問わず、様々な分野で広汎に展開されている。担当者は、文化人類学の観点を活かしながら、情報ネットワーク研究に取り組んできた。この授業では、社会科学の分野における情報ネットワーク研究の基礎を学び、文化人類学、エスノグラフィーの果たす役割、具体的な研究プログラムを考える。夏学期(「情報ネットワーク研究と文化人類学(I))では、情報ネットワーク研究の概論とヴァーチュアルエスノグラフィーの導入を行い、それを受けて、冬学期では、ネットコミュニケーションに焦点をあて、様々な分野のネットコミュニケーションに関する文献を読むとともに、参加者にミニプロジェクトを立案・遂行してもらう。


箭内匡 場所の人類学:演習

この授業は、人類学的諸テーマを場所・物・イメージといった問題と関連付けながら考えていくという全体的方向性の中で、授業参加者自身の研究テーマを発展させることを目標とする。学生自身の理論的/民族誌的関心やフィールドのデータを出発点として、相談の上(他の参加者にとっても有益な発表になるように配慮しつつ)、毎回の発表課題を決める。基本的に文化人類学コースの学生のみを対象とする。


箭内匡 超域文化科学特別演習 イメージの人類学:経済の問題

この授業では、経済人類学的なテーマ(所有・交換から貨幣論を経て今日的問題まで)を、物・イメージと制度・表象との「あいだ」を考察する「イメージの人類学」(映像人類学をもその一部として含む)という視角から検討する予定。


渡邉日日 社会人類学再入門

人類学者には、調査対象者のことを「悪く」書かず、何らかの積極性を見いだし、そう結論づける癖がある。そのような時、行為主体性(agency)という術語が多用されてきた。「マクロな」構造と、微視的な観察で見いだされる「ミクロな」行為との相関関係について、主としてマーガレット・アーチャーの議論を検討する。使用文献は、Sherry B. Ortner (2006) Anthropology and Social Theory, Durham: Duke UP; Margaret S. Archer (2003) Structure, Agency and the Internal Conversation, Cambridge: Cambridge UP.


渡邉日日 誤解論~組織的コミュニケーションについて~

コミュニケーションに於いては、幾つものディスコミュニケーションの可能性が秘めている。いわゆる「多言語」状況でなくても、「単一言語」の使用の中でも、誤解は生じる。そうした誤解というものは、たわいのない悲喜劇から重大な事故に至るまで、様々な結果をもたらすのである。本ゼミでは、こうした関心から、言語人類学・組織論・経営学などの英語文献を読み、誤解について議論していく。論点としては、記号の指示対象を明確にせよというある種のイデオロギーに抵抗しつつも、そのイデオロギーの根強さを確認することが挙げられよう。初回に文献担当の打ち合わせをするので、受講希望者は必ず初回から出席のこと。 


名和克郎 記念講演で読む社会・文化人類学

 社会・文化人類学の学説史上有名な講演、また著名な人類学者によって行われた講演(が活字になったもの、原則として英語)を読み、その歴史的役割と現在における意義について批判的に検討する。この作業により、社会・文化人類学の歴史と現状について概説書レヴェルを越えた理解を得ると共に、英文読解力の向上を図ることが目標である。 


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