大学院授業[2023年度]

東京大学大学院・総合文化研究科・超域文化科学専攻

文化人類学コース 開講授業 [2023年度]

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全教員 文化人類学コース全体ゼミ(通称「水曜ゼミ」)- 通年

 文化人類学コース所属の教員と大学院生が集まり、大学院生が順に個別発表を行なっていく全体ゼミ。その目的は、大学院生各自が議論と対話の中で自身の研究を発展させてゆくことであり、また、自身の研究を多様な視点(狭義の文化人類学の枠には必ずしもこだわらない)から眺め直しつつ、しだいに強靭な思考力を身につけてゆくことである。

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藏本龍介 宗教人類学入門 (1) A1 (2)A2

 古今東西、人類は「見えない世界」と関わりながら生活してきた。宗教人類学は、人類がこの「見えない世界」とどのような関係を取り結んでいるか(技術や知識)、それが「見える世界」(社会)にどのように影響しているかといった問題を、民族誌的なデータをもとに明らかにしようとする学問である。

 19世紀半ばに始まって以来、宗教人類学は長らく「未開」社会の民間信仰(アニミズム、シャーマニズムなど)を研究対象としてきたが、20世紀半ば以降、その対象は聖典をもつような宗教(仏教、キリスト教、イスラームなど)にも広がっている。そしてその方法論は人類学全般の理論的傾向(機能主義、構造主義、象徴論、ポストモダニズムなど)を反映している。

 A1タームは、宗教人類学に関する基本的なトピックスについて、講義形式で紹介する。A2タームでは、学生の関心に応じて宗教人類学に関する文献を購読する。

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後藤はる美 歴史のなかの感情・1(S1)、2(S2)ー入門ゼミー

 近年の歴史研究では、身体や感情への関心がますます高まっている。この動きのなかで、感情は普遍的な身体と文化的構築物としての身体の双方に紐づけられ、その狭間で発現し、意味づけられるものとして理解され始めている。この授業では、16~19世紀ヨーロッパを主な対象に、感情の歴史に関するテクストの講読を通じて文化史の最前線を学ぶ。S1タームでは、主に中世から近世を扱う。S2タームでは、おもに18~19世紀を扱う。

後藤はる美 歴史のなかの感情(A1) ―研究ゼミー

 S1・S2開講の入門ゼミ「歴史のなかの感情」に引き続き、感情史の問題を学際的に扱う文献を取りあげ、演習形式で講読する。原則として「歴史人類学A/B」「歴史人類学研究A/B」「西欧基礎文化論I」既履修者を対象とする(それ以外で履修を希望する人は、事前に担当教員の許可を得ること)。

講読文献:

J・プランパー(森田直子監訳)『感情史の始まり』みすず書房、2020年

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関谷雄一 研究ゼミ - 開発の民族誌を読む 講義・演習編(S1)、講読・演習編(S2)

 文化人類学による開発研究は様々な民族誌を生み出し、社会開発に対する批判的視座を形成してきた。本講座では、話題になった開発の民族誌を何冊か精読しながら、社会開発に対する文化人類学的な視座(批判ばかりでもないが)を確認するとともに、余力があれば最新の民族誌的研究も取り上げながらその変異についても考察してみる。S1タームは数回の講義ののち、リーダーズ的教科書を輪読する。続編のS2タームは民族誌の講読を中心に演習型授業を展開する。必要に応じ、ターム単位、セメスター単位でご参加ください。

関谷雄一 研究ゼミ - アフリカ開発と政治制度そして民衆 - ニジェールクーデターは正当化できるのか? (A1-A2)

 本講座は、開発の重要な担い手であるとされる国家が、必ずしも安定的な政治制度を確立していない場合、開発や国家とどのように向き合うべきなのかを、共時的に起こっている政変(2023年7月26日に起きたニジェールクーデター)を題材に、考察を深める作業をすることを目標とする。前半(A1ターム)では、政治の人類学やアフリカの政治制度と民衆運動に関する基本的な文献を講読し、後半(A2ターム)ではニジェールの政治制度に係る文献を読みながら、インターネット等で入手可能な関連情報を参考にしつつ今回発生したクーデターの背景、その行方について考察をしてみる。

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塚原伸治 民俗学-フィールドワークと研究組織ー(入門ゼミ) (S1)

 日本の民俗学の学問的特徴をとらえるうえで、このディシプリンがたどった歴史を理解することはひとつの近道である。この入門ゼミでは1930年代を日本における民俗学の成立期と捉え、その時期にこの分野がどのような方法と研究組織をもったものとして志向されていたのかを考える。このことは、「学祖」である柳田國男の影響力を認めながら、同時にその手元を離れた自律的な分野であることを考えていくうえで、非常に重要な作業である。なぜならば、日本の民俗学は柳田が考えたようには育たなかったし、その結果として現在の民俗学があることは間違いないからである。

 内容はいわば民俗学史の前半部分となるが、これは現在の民俗学を考えるための基礎をつくる作業でもある。さまざまな関心を持つ受講者との対話のなかで、民俗学の特徴を探ることを試みたい。

※ターム科目。入門ゼミではあるが、2022年度S1とは異なる内容であるため再履修を可とする。

塚原伸治 日本民俗学の海外調査—比較民俗学再考— (S2)

 民俗学はロマン主義的ナショナリズムの強い影響下において生み出されたことから、「母語」による「自文化」研究という指向性が現在に至るまで根強い。しかし一方で、かなり早い時期から現在まで、東アジアを中心として日本の研究者による海外調査が行われてきてもいる。元をたどれば「大東亜民俗学」として批判される植民地主義と直結した関心による研究を無視することができないが、一国民俗学の偏狭さを相対化し乗り越えるための強力な武器として期待されてきたことも同時に考えなければならない。何よりも、それが隣接分野とはまた異なる道筋での人間理解を目指してきたことは、今なお検討の余地があるだろう。

この授業では、20世紀前半から現在までの期間に日本の民俗学者たちが実施した海外調査による民俗誌的記述と、比較民俗学を理論的に検討したものを並行して読むことで、日本の民俗学における海外調査がどのようなものであるのかを考える。(そして、もし可能ならば、このことが民俗学における「比較」の視点についても検討することを目指したい)

※この科目はターム科目として開講される。

塚原伸治 アートとパフォーマンス―日米民俗学の接点を考えるために― (A1)

 民俗学は国や地域ごとに個性をもって育ってきた。そのため、必ずしも日本と海外の民俗学で共通する課題をみつけることはたやすいことではない。この状況のなかで、「パフォーマンス」をキーワードとして研究を位置づけることは、日本と英語圏の民俗学を接続するうえで大きな手がかりになるものと思われる。アメリカ民俗学における「パフォーマンス(論的)転回」は、おおよそ民俗学が扱うすべての領域に関わる動向であるが、この授業では試みに、芸能(Performing Arts)を中心として扱い、あわせて補足的に言語芸術(Verbal Art)をめぐる理論研究について考える。

※この科目はターム科目として開講される。

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津田浩司 分野入門ゼミ「民族・エスニシティ論」 (A1)

 「文化人類学では古典的に、「〇〇人」や「××族」などと呼称され、特定地域に集住する民族・エスニック集団(ないし人種等)に対象設定したうえで、その「文化・社会・伝統」の特徴などをつぶさに記述してきた。今にちの人類学では、その記述の方向性は静態的なものから動態性なものへ、また斉一的なあり様を抽出するものから文脈を重視し多義性・柔軟性に焦点付けるものへと大きくシフトしており、何よりも対象設定自体もいわゆる民族等に限られるわけではない。とはいえ、人間集団をいかに捉えるかをめぐり展開されてきた思考は、今にちの人類学の中でも基本的なアイデアの一角として受け継がれており、また現代社会におけるそれぞれの現場を具体的に理解していくうえで、重要なヒントを与えてくれる。

この分野入門ゼミでは、人類学における民族・エスニシティ論の展開の基本的な論点を提示し、解説をした後に参加者と議論をする。

主なトピックは、本質主義と構築主義、「想像の共同体」論、人種主義、反植民地運動とナショナリズム、先住民運動などを予定している。

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中村沙絵 喪・追悼をめぐる/としての民族誌的実践 (S1-S2)

 本講義は、南アジア地域に関する作品を中心とする(それ以外の地域を含む)死と喪をめぐる人類学の著作をテキストとしてとりあげ、1)死・喪・追悼をめぐる主要な人類学的理論を整理すること、そして2)喪というテーマに基づいて民族誌を書くという行為自体について、ディスカッションを通じて、新たな展望をもつことを目的とする。

 死や喪というのは、遠いようでいて身近、身近のようで遠い、人類学においては古典的テーマの一つである。身のまわりの自明な世界に対して複眼的な思考・態度を身につけるという文化人類学の営みを、死・喪・悼みという具体的で奥行きのあるテーマを軸に体得することをめざしたい。

 本講義は、学部後期課程「専門英語」の科目名でも登録されている。テキストはすべて英語で書かれたものを扱う。アカデミック・リーディングとの関係でいえば、本講義では下記(1-2)にあるように、異なるスタイルの作品に応じて、異なる読み方を試みる。民族誌は論述スタイルと描写的な記述とが入り混じったジャンルであり、異なる書き方/読み方へのセンスを磨くことは、英語で書かれた人類学的著作を読みこなす上でも役立つだろう。

中村沙絵 フェミニスト・エスノグラフィーの射程 (A2)

 本講義では、フェミニスト・エスノグラフィーと呼びうる代表的な著作をとりあげつつ、フェミニズム理論やインターセクショナリティの議論・運動が、人類学の分野全体にいかなる影響を与えてきたのか、またそれは人類学における問いや方法、あるいは倫理をどのように形成してきたのかを考察する。

 フェミニスト・エスノグラフィーは(日本においては)一つのまとまった領域として体系的に教えられることは少ないが、人類学の分野全体の歴史的展開を追う上でも欠かせない多くの著作・作品がある。これらをつなげて読んでみることで、どんな面白い発見があるだろうか。講義とディスカッションを通じて、フェミニズムと人類学が交差する地点で争われてきた主要な議論や、これが拓く可能性について考える。

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名和克郎 Issues and Methods in Cultural Anthropology and Ethnography: Anthropological Understandings of Asian Societies: Classics and Beyond (S1-S2)

 In the past, sociology's main task was to elucidate "modernity" and/or "modernization" based primarily on Western experiences, whereas the main target of sociocultural anthropology was societies that were considered "primitive." Researchers of Asian societies, with their long histories, written cultures, and complex social institutions, have been forced to conduct their own explorations between these two disciplines. In this class, we will contrast the theoretical perspectives on Japan, China, and India developed by researchers, both from Asia and the West, in relation to their own field research experiences in the second and third quarters of the 20th century, and introduce several anthropological models of Southeast Asian societies. We would then like to discuss the limitations and contemporary significance of such literature.

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浜田明範 医療人類学入門  (S2)

 この授業では、医療人類学の基本的な概念と発想について、古典的な研究から最近の研究までを概観していきます。この作業を通じて、皆さん自身が医療人類学を実践していく際のツールの一覧を提供することを目的としています。

 病気や不幸の経験をどのように認識し、それにどのように対応するのかは人類学にとって重要な主題のひとつとされてきました。1970年代後半以降に成立した医療人類学は、それまでの研究関心を引き継ぎながらも、語りと経験、政治経済と社会的苦悩、科学技術と事実化、自然文化と生社会性、ケア、感染症などなどといった独自の議論を展開することで、文化人類学一般に対する理論的貢献を行ってきました。

 この授業では、これらの概念と発想についての、初発の見取り図を提供することを目的とします。

浜田明範 感染症の人類学・文献講読  (A1)

 感染症の人類学の可能性を探求するために民族誌を購読する。取り扱う文献は、受講者の人数と関心に照らして、下記の3冊のなかから1冊を選択する。

 Susan Reynolds Whyte (ed.) 2014, "Second Chances: Surviving AIDS in Uganda", Duke University Press.

 Andrew Lakoff 2017, "Unprepared: Global Health in a Time of Emergency", University of California Press.

 Vinh-Kim Nguyen 2010, "The Republic of Therapy", Dule University Press.

 受講者には毎回決められた範囲(概ね、40-50ページ)を読んでくることが求められる。また、受講者の人数にもよるが、授業期間中に最低1回のレジュメの作成が義務づけられる。レジュメは授業日の前日の早朝までに受講者で共有し、各受講者はレジュメと本文の内容について話すべきことを用意して授業に望むこととする。

※この授業は、運営の都合上、初回を含めてすべての回を原則的に対面で実施する。やむを得ない事情でオンラインでの受講を希望するものは事前に連絡すること。

※ターム科目(2022年度より文化人類学コースの多くの科目がターム科目として提供される)

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宮地隆廣 因果関係の推論 (S2)

 因果関係を明らかにする手法について、多様な研究が蓄積されつつある。この講義では社会科学の事例を用いながら、その手法の考え方を学ぶ。

(1)因果推論に関する多様な手法を理解する。

(2)因果推論に関する考え方が人文社会科学の内部でも多様であることを理解する。

宮地隆廣 ラテンアメリカ政治入門 (A1-A2)

次の3点を説明できるようになることがこの科目の目標である。

(1)ラテンアメリカの政治的特徴

(2)ラテンアメリカ政治史における重要な概念や事件

(3)国家や民主制など、政治学の基本概念

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渡邊日日 講義「ことばと社会」(S1)

 ことば,広く言って言語記号は,文化人類学にとって大きな関心事であったが,今でもそうである。言語は人に「寄生」しなければ生きていけず,人は言語コミュニケーションなしでは社会的に生きていけない(本講義では,非人間間の記号的関係については扱わない)。全7回の講義で,ことばをめぐる諸問題を論じつつ,社会のなかの言語を考えるにあたって最低限の素材を提供する。

渡邊日日 (A) 演習:議論の組み立てと調査の設計

 質的調査において,なにげなく「データをとってくる」と語るとき,「とってくる」とはどういうことなのかについて深く考える人は少ない。何も考えずに「フィールド」に赴いて,後の記述と考察に足るデータを取得することは不可能だし,また,データ収集の「あと」に理論や議論を考えるというのは,理論や議論の生産や展開ということについて無自覚な証拠だろう。対象を見つめ,それについて考えようとするとき,すでに理論負荷の状態にある。また,議論の枠組を正確に定めようとするとき,すでにデータ収集は,少なくともその方法論において,始まっている。このような問題意識のもと本ゼミでは,民族誌や社会学,文化人類学などでフィールドワークを考えている学生を対象に,考える・見る・聞く・尋ねるという作業を一貫して考えることを目指す。具体的には,いくつか調査手法に関して基礎的な英語文献をひもといたのち,各自の研究デザインに応じて,研究=調査の有機的つながりを実践していく。

渡邊日日 (A2) 演習:ロシア帝国の異族人と言語問題(英語文献を読む)

 ロシア帝国が多民族帝国であったことは周知の歴史的事実だが,多民族性が専門的に研究されるようになったのはそれほど昔のことではない。というのも,研究上,困難があったからである。西部国境やカフカース,ボルガ川流域,中央アジア,シベリアに数々の民族がいたことは明らかな一方,ロシア帝国は制度的に身分を土台にした帝国であり,多民族性は認識できるけれども制度的根拠があってのことではなかった。宗教やジェンダーという他の差異も存在していた。数々の差異のなかで大きな差異の一つが言うまでもなく言語であり,帝政末期の国勢調査によって多言語帝国であることが示された形であった。帝政期,差異はどのように意識され,議論されたのか,本演習では異族人と言語を例にとり,英語文献を読みながら,多元性の議論の仕方を考えていきたい。

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