津田浩司
津田 浩司 TSUDA, Koji [教授]
【総合文化研究科・教養学部スタッフ】
東南アジア・東アジアの文化人類学。とりわけ民族・エスニシティや宗教にまつわる現象に関心を持っている。専門は現代東南アジア島嶼部(主にインドネシア)の華人社会に関する民族誌。
Email:
tsuda@anthro.c.u-tokyo.ac.jp
1. これまで取り組んできたこと/現在取り組んでいること
ーー研究対象としてのインドネシア華人社会を中心に
私は過去20数年来ずっと、東南アジア、とりわけインドネシアの華人社会を研究対象の焦点としてきました。
インドネシアでは1998年に、30余年にわたって続いた権威主義的独裁体制が崩壊したのを機に、それまでこの国において「国民統合上の問題」として公的な場で大々的に語ることが禁じられて来た中華系住民の存在が、にわかにクローズアップされるようになりました(直接のきっかけは、98年の政変時に彼らが暴動・略奪の標的となり、少なからぬ犠牲者が出たことです)。以降同国では、民主化・地方分権化の模索が続く中で、「華人の存在」や「華人の文化」を積極的にアピールしていこうとする流れが生じました。私がインドネシアで長期調査を行った2002~04年は、まさにこうした動きが(試行錯誤や躊躇を伴いながら)本格化し始めた時期に当たります。
こうしたなか私は、政治・社会環境が大きく変化する只中で、日々の暮らしの中で(現代インドネシアにおいて「華人」として生きている)人々が自らの民族性(この場合は「華人であること」や「華人性」)をいかに意識し、経験し、表出するかを、記述的に明らかにしようとしてきました。ここで「記述的に」というのは、おおよそ民族性なるものは、マクロな制度や歴史、それに個々の事象を取り巻くミクロな文脈(そこには複数のアクターの意図や視線等が含まれます)が複雑に絡み合う中で析出されるものではなかろうか、との問題意識が前提としてあるからです。そして、そのような複雑な過程の総体を複眼的に捉えていくことこそがフィールドワークの大きな強みであり、また、そうして得られた知見を、人々の経験に即しつつ全体的脈絡の中で描き切ることこそがエスノグラフィの第一義的な目的である、と考えています(無論、フィールドワークをすること、エスノグラフィを書くことの意義は、専らそれらに還元されるべきものではありませんが)。いささか古典的な構えかもしれませんが、私はこうした立場から文化人類学という学問にコミットしています。
上述のように、21世紀への転換点に大きな社会変動に晒されたインドネシア華人の経験をフィールドワークに基づきつつ捉えていくことが、これまで私の大きな研究のドライブになってきました。が、少し俯瞰的に彼らを取り巻く制度や歴史について考えていくと、どうしても20世紀への転換点において生じた社会変動についても目を向けないわけにはいきません。というのも、この時代というのは、今にちでは日常語となっている「民族」や「文化」、「伝統」、「宗教」といった抽象語が急速に社会に浸透し(日本語でもこれらは西洋由来の概念を新たに翻訳していく過程で定着していったことが知られています)、人々がそれらの語(やそれらに類する語)でもって自らについて語り出す時代だったからです(このことに対し出版資本主義が果たした役割の大きさは言うまでもありません)。では当時、具体的にいかなるものがこれらの語でもって焦点化され語られ経験されたのか、などといったことをつぶさに検討していくことは、今にちにおける「民族」や「文化」等々の析出のされ方について再検討していくうえでも、重要な知見を提供してくれるだろうと考えています。
以上、専らインドネシア華人というコアな対象に即した形で私の関心を述べてきましたが、私の仕事は、民族・エスニシティ論をめぐる議論以外にも、文化表象とアイデンティティ、宗教組織の制度化と人々の信仰様態の変化、歴史経験をめぐる言説空間を再構築する試みなど、複数の論点を含んでいます。この裾野の広がりの部分で、きっと多くの学生の皆さんとの対話の接点が見出せるものと思っています。
2. 大学院授業
主に、民族・エスニシティ論、それにフィールドワーク論に係るテーマを中心的に扱っています。この他にも、東南・東アジアを中心とした複数の民族誌を題材に、宗教、人の移動をめぐるテーマ等々に焦点を当てた授業を展開しています。あわせて「これまでの授業内容」をご覧ください。
3. 大学院での研究指導
何よりも大事なのは対話であると思っています。対話のためには、まずは相手に話しかけてみるというアクションを起こさねばなりません。当然ながら、学生の皆さんにとってこれは、まずもって自分の考えを述べてみる、書いてみる、ということになります。こうして言語化され表出されたものを叩き台に、学生と一緒に考えを深めまとめていく、というのが指導の基本スタイルです。ただし、実は多くの場合、フィールドにおける経験(あるいはフィールドに赴く前の問い、研究の着想や構想)を言語化するということ自体が最も困難を伴う作業となります。ですので、その言語化の過程においても随時、(時にラディカルな思考実験を促すなどしつつ)お互いもがくことを楽しみながらアイデアを見つけていく手助けができたらと思っています。
4. 進学を考えている方へ
私が理解する文化人類学という学問は、明晰な理論でもって何らかの現象を対象化し一刀両断するというよりは、現象を前にして(時にそれに圧倒されつつ)、何とか頭を使いながら同時に手足をばたばた動かし(何かが「分かる」というための方途はロジックやロゴスのみに限られません)、複数の視点を往還するなかで(その限りにおいて特権的な視点は存在しません)、少しずつその全体を捉えたいと試みを重ねる、そういう志向を持つものとしてあります。こうした理解のものでは、何かが分かるとまた新たな問いが次々と出てくるというのが常態であるため、それはゴールのない探求の旅となります。が、それは、(寄り道も含めて)歩みを進めていく過程で都度新たな地平が見えてくる、そういうわくわくするような旅でもあります。そんな旅を一緒にしてみたい方は、いつでも歓迎しています。
5. 研究業績
researchmapに包括的にまとめてあります。また、最近の研究のいくつかは個人ホームページにもまとめてありますので、あわせてご参照ください。
【文化人類学研究室・教員関係ページ】
教員紹介(全体)・・・コース教員一覧(各教員の研究内容概要、個別ページへのリンクを含む)
教員による著書・・・スタッフの著作の表紙画像(内容紹介ページへのリンク付き)
進学を考えている人へ(全体)・・・教員スタッフからのメッセージ(「進学情報」セクション内)
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