大学院授業[2012]

東京大学大学院・総合文化研究科・超域文化科学専攻

文化人類学コース専任教員 開講授業  [2012年度]

山下晋司 越境の民族誌

世界観光機構(UNWTO)によると、2010年には約10億人が国境を越えて移動し、その数は2020年までに16億人に達すると言われている。グローバルな移動の時代である。この授業では、トランスナショナリズム(脱国民国家化)の視点から、グローバルな人の移動に伴う社会・文化の動態について、民族誌的に検討する。学期の前半は、グローバル化に伴う国際移動、移民、エスニシティ、ジェンダー、観光、開発、先住民、人権等について、主に環太平洋地域のさまざまな事例を取り上げ、適宜ビデオやDVDも見ながら、解説する。後半では、越境の民族誌というテーマのもとで、各自の関心に応じて課題を設定し、文献を調査し、発表するというかたちで演習を行う。最後にトランスナショナリズムの人類学に向けて論点をまとめる。

山下晋司 博士論文 ライティングアップ・セミナー(1)

文化人類学コースにおいて博士論文を書き上げるためのセミナー。フィールドワークを終え、博士論文を準備中、あるいは現に執筆しつつある文化人類学コースの博士課程の大学院生のみを対象とする。発表者は博士論文のドラフトの一部を発表し、担当教員およびセミナー出席者からのコメントを受けることで、論文完成へとつなげることを目的とする。


山下晋司 博士論文 ライティングアップ・セミナー(2)

夏学期に続き、文化人類学コースにおいて博士論文を書き上げるためのセミナー。フィールドワークを終え、博士論文を準備中、あるいは現に執筆しつつある文化人類学コースの博士課程の大学院生のみを対象とする。発表者は博士論文のドラフトの一部を発表し、担当教員およびセミナー出席者からのコメントを受けることで、論文完成へとつなげることを目的とする。


木村秀雄 コミュニティに関する文献を読む(1)

これまでさまざまな視角から論じられてきた「コミュニティ」に関する文献をまとまって読む。これを通じて、コミュニティ論における自らの立ち位置を確認する。


木村秀雄 コミュニティに関する文献を読む(2)

夏学期に引き続き、コミュニティに関する文献を読む。この学期では、「無為の共同体」や「何も共有していない者たちの共同体」など、哲学的な分野まで読解を進めていきたい。 


川中子義勝 真理の継承 ―― 内村鑑三から矢内原忠雄へ

日本の文化的伝統とキリスト教受容の関係を検証する。本年度は、内村鑑三と矢内原忠雄の師弟関係において、信仰ないし真理観がどのように伝達・継承されたのかを問題とする。具体的には、両者の著作や、ことに内村鑑三を扱った矢内原の著作、講演などをてがかりにして、聖書本来の世界観と、その西欧的偏差を被った伝播の姿、さらには、それらがいわゆる日本的伝統に接続していく場合の動態を、摂取と齟齬の問題として見てゆく。真理の継承の問題を「戦争」「国体」などの主題と関わらせつつたどることとなろう。そこに示された宗教と文化、個人と共同体の関わりを今日的問題として受け止め直すことが目指されている。


川中子義勝 聖書の思想 ―― ロマ書を読む

キリスト教思想の形成やその歴史・伝統が問い返されるとき、立ち帰っていく処はつねにパウロとその「ローマ人への手紙」であった。今回は、毎回1章くらいテクストを丹念に辿りながら、その内容を跡づけていく。ギリシャ語の知識は特に前提としない。むしろ聖書やキリスト教思想へと導入することをも意図している。キリスト教思想史から、ルター他の宗教改革者の注釈書や聖書講義、また19世紀自由主義を20世紀神学へと転換したバルト『ロマ書』などを適宜参照していく予定。内村鑑三やアガンベンなど、参加者が自らの関心を交えることも可能であろう。 


岩本通弥 現代民俗学の射程―ドイツ・フォルクスクンデとの比較対照を中心に

戦後ドイツ民俗学転換の起点となったのは、ヘルマン・バウジンガー『科学技術世界のなかの民俗文化』(河野眞訳、文楫社、2005年、原典1961年、第二版1986年の訳)であった。これを大前提にして、バウジンガーが1971年に著した『フォルクスクンデ・ドイツ民俗学―上古学の克服から文化分析の方法へ』(河野眞訳、文緝社、2010年)購読する。戦後民俗学の新たな定義は、1970年のファルケンシュタインでのドイツ学会で示された。上記の書は、それを惹起した、ロマン主義的な「連続性」に基づいた、従前の民俗学の基本認識を、現象学的観点から根本から問い質した、現代民俗学にとっての原点である。文化人類学とは異なり、専ら文明社会を対象化してきた民俗学の特徴や可能性を、読み取ることを目標とする。 


福島真人 科学的実践の人類学(1)-世界を観る

近年の科学技術にまつわる様々な問題が我々の日常生活に大きな影響を及ぼすようになり、科学・技術的実践と社会・文化との関係への関心は益々高まっている。こうした領域への研究には多様なアプローチがあるが、この演習では、科学・技術的実践そのものがもつ、文化・社会的な意味合いを、二つの領域に分けて、半年ごとに論じる。夏学期はその前半にあたり、科学的実践を通じて、世界や自然を観る、観察するという活動が持つ意味を、より広い文化社会的な文脈から考えることを目的としている。世界を観るためには、先ずそのための概念、それを可能にする道具、それをする人々の協働、情報の伝達といった要素が複雑に絡み合っている。同じ対象に対しても、複数の観察者が異なる結果を出す(研究者どうし、あるいは科学者、政府、市民団体)など、そこには我々が経験する様々な問題がある。また新しい道具の開発が、新しい世界の見方につながるというのは、科学に限られた現象ではない。この演習では、科学的知識と日常的実践、科学、政治、メディアの相互関係といった問題を、「観る」という行為の重層性を通じて、明らかにすることを目的とする。


福島真人 科学的実践の人類学(2)-世界を創る

現代社会においては、従来の自然と文化の古典的バウンダリが問題化され、新たなモノの出現による人工的自然と文化社会の関係が問われるようになってきている。こうした領域への研究には多様なアプローチがあるが、ここではさまざまなモノやテクノロジと人間社会とのかかわりを、ある種の生態系に見立てて、テクノロジの生態学的な演習をおこなう。テクノロジにはさまざまなタイプがあるが、モノとして見立てられる個別の製品から、社会全体を覆うシステムのようなものもある。またテクノロジの発展は、ある種のニッチ的な部分からそれがレジーム化し、さらにグローバルなランドスケープにいたるというミクロマクロの動態がある。 今学期は、そうした多様なテクノロジの展開を、それぞれの固有の性質と、社会への関わりを中心に議論していく。社会と技術はいわば共進化的であるが、その絡み合うプロセスを個別のケースをもとに議論していく。 


木村忠正 オンラインエスノグラフィー

「現代社会は、オンライン空間とオフライン空間が相互に浸透し合いながら、社会的日常空間を構成している。こうした新たな社会的空間におけるコミュニケーション活動の研究(CMC(Computer Mediated Communications)研究、情報行動研究とも呼ばれる)は、社会心理学、社会学、ネットワーク科学からのアプローチが多いが、文化人類学においても研究が徐々に蓄積されつつある。しかし、情報ネットワーク行動への質的研究に関しては、個人情報の取扱い、協力者との信頼関係、協力者の特定、調査同意の取得など倫理的面も含め課題は多い。そこでこの授業では、情報ネットワーク行動に関するエスノグラフィー研究の基本的文献にもとづき、アプローチの仕方、方法論上の課題、理論上の関心について理解し、専門的学術研究として発展させていくための基礎を養成することを目的とする。 


箭内匡 映像人類学(K・ハイダー教授による) Visual Anthropology (by Prof. Karl Heider)

この授業は、2012年度夏学期に駒場に滞在する著名な映像人類学者カール・ハイダー教授が行う予定である。目的は、人類学的研究・報告・教育における視覚素材(映画、ビデオ)の様々な用法を考察すること。取り上げる諸素材は、過去80年間の映像人類学の広い領域から選んだものであり、作品(ないし素材)としての各々の成功の度合はともあれ、すべてが熟考に値するものである。

This course will be given by Professor Karl Heider, distinguished American visual anthropologist, who will be visiting Komaba this year. Its goal is to investigate a variety of uses of visuals (film, video) in anthropological research, reporting and teaching. We cover a wide range of visual anthropology from the last 80 years, some successful, some not, but all worth exploring.


箭内匡 民族誌的フィールドワークとは何か

この授業では、民族誌的フィールドワークという(単なるデータ収集には還元できない)作業をイメージ的な経験として捉えつつ、過去および現在の民族誌的フィールドワークの性質およびその様々な形態について考察する。民族誌的フィールドワークをこれから行う・現在行いつつある・既に行った人が、(自らの経験と対照しながら)関連文献を読み、フィールドワークという作業についての自らの認識の幅を広げ、またその深みを増すための機会としたい。 


渡邊日日 人類学的思考の領域:文化・社会人類学への再入門

主に大学院生の「初心者」(修士1年,博士1年)を対象に,人類学的思考の特徴と領域をゼミ形式で考えていく。Michael Herzfeld, Anthropology: Theoretical Practice in Culture and Society (John Wiley & Sons, 2001)を基本教材とし,受講者の関心に合わせ様々なトピックを取り上げる。学説史の再確認とともに,自身の研究関心と学説史とのリンケージの仕方を学ぶことが目標。


渡邊日日 人類学的思考の領域:文化・社会人類学への再入門

社会は,人々の記号(特に言語)を介したコミュニケーションで成り立っている。だが記号過程は一様でなく,ときに誤解が深刻な結果(リスクや事故を含む)を引き起こすこともある。航空・医療・社会運動などの事例を通し,記号人類学の射程を再構築しつつ,哲学や社会理論との連携の可能性を考える。 


津田浩司 東南アジアの人類学―宗教の視点から

現代東南アジアの宗教現象に関する民族誌を読み、種々の分析の視角を養うとともに、個別的事例から人類学的にいかなる知見を導き出せるかを考える。なお、対象地域は必ずしも狭義の東南アジアに限定するものではなく、またたとえば宗教現象全般に関心のある学生等の履修も妨げない。


津田浩司 東南アジアの人類学―民族・エスニシティの視点から

現代東南アジアの民族・エスニシティに関する民族誌を読み、種々の分析の視角を養うとともに、個別的事例から人類学的にいかなる知見を導き出せるかを考える。なお、対象地域は必ずしも狭義の東南アジアに限定するものではなく、またたとえば民族・エスニシティ現象全般に関心のある学生等の履修も妨げない。夏学期「文化構造論II」の続きであるが、冬学期のみの履修も可能である。 


名和克郎 記念講演で読む社会・文化人類学

社会文化人類学の学説史上有名な講演、また著名な人類学者によって行われた講演(が活字になったもの、原則として英語)を読み、その歴史的役割と現在における意義について批判的に検討する。この作業により、社会・文化人類学の歴史と現状について概説書レヴェルを越えた理解を得ると共に、英文読解力の向上を図ることが目標である。

名和克郎 集団範疇論再考

従来の議論の理論的前提への異議申し立てと、グローバルに展開する範疇化の過程の双方を見据えつつ、集団範疇論を再考する。古典の再読と、近年注目された幾つかの議論の批判的検討を往復する形で議論を進めていきたい。 


関谷雄一 アフリカの奴隷制度史:奴隷交換から人身売買まで

奴隷制度は、人類史を通じて存在してきた重大な現象である。古代から現代にいたるまで人の交換、売買は世界各地で制度的に行われてきた。本講義では14世紀半ば以降のアフリカの奴隷制度の歴史を現代アフリカにおける非合法の人身売買に至るまで、いくつかのテキストを用いつつ分析をしてゆく。テキストにしたがって大雑把な時代区分をすればとりあえず下記のようになる。
 1350-1600 イスラム教影響下の奴隷制
 1600-1800 奴隷貿易時代
 1800-1900 奴隷貿易廃止前後の時代における奴隷制
 1900-1960 植民地時代の奴隷制
 1960-現在 アフリカ独立以後も続いた奴隷制と人身売買
アフリカの政治経済、歴史そして社会を考えると、奴隷制度が残してきた傷痕は計り知れない。現在途上国で発生している非合法の奴隷制や人身売買の件数が最も多い地域も残念ながらアフリカ大陸である。その歴史と現状について考察する。


関谷雄一 援助の国の冒険:国際開発協力専門職の人類学

現代人類学の関心は、多角的知識や社会的実践に向けられるようになり、様々な専門職を対象とした民族誌的研究もおこなわれるようになってきた。こうした人類学の研究対象としての国際開発協力は、他の専門職分野と比べても、最も長く緊密な関係を築いてきた。本講義ではDavid Mosseの最新の国際開発協力の専門家や実践者を対象とした研究を題材に、関係者が織りなす貧困削減のための知と政策の形成過程のダイナミズムを追究してゆく。

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