塚原伸治
塚原 伸治 TSUKAHARA, Shinji [准教授]
【総合文化研究科・教養学部スタッフ】
民俗学を専門とする。特に、日本の地方中小都市に生きる人々の現在について、歴史や伝統との関係から考えてきた。近年は民俗芸能や祭礼のような古典的対象について新しい視点から考えることにも取り組んでいる。
Email:
tsukahara[at]anthro.c.u-tokyo.ac.jp
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これまで取り組んできたこと
研究のフィールドはおもに千葉県香取市(佐原)、滋賀県近江八幡市、福岡県柳川市。取り上げてきた対象は商慣習、家の継承、儀礼、民俗芸能、美術工芸、町並み保存運動、文化財行政、歴史語りなど多岐にわたります。必ずしも一貫性をもって突き進んできたわけではありませんが、全体を貫く緩やかな志向としては、現在を生きる人々が歴史や過去とどのような関係にあるのかということについて、特に伝統の拘束的な側面から考えようとしてきました。
史料を用いた歴史民俗学的研究も手がけており、福岡県柳川市の商店街に生きてきた人々について、日常史という視点から民俗誌を書いている途中です。具体的な街角のできるだけ微細な日常生活の変化に目を向けながら商店街の成立・発展・衰退のプロセスを描くことで、商店街衰退をめぐるさまざまな支配的語りを相対化することを目指しています。
現在取り組んでいること/これから考えたいこと
老舗と商店街の研究、伝統論、市場交換や経営に関する民俗学理論の研究は継続していますが、それに加えて、地方都市に関する民俗学的研究の中で出会ってきた祭りや民俗芸能についても考えています。特に身体を用いておこなわれるさまざまな非日常的表現に関心をもっており、それらが美的な表現であるのと同時に痛み・苦しみを伴うことであること、あるいは忘我の境地に誘われていくことなどに着目しています。これについては、折口信夫以来の日本における民俗芸能研究の分厚い蓄積との対話の中で考えようとしているところです。
長期的には、日本の民俗学を学際的・国際的な動向の中で位置づけるということにも関心があり、文化人類学および歴史学との接点や、アメリカ民俗学の研究動向との接続の可能性などを模索しています。民俗学を国際的な研究動向のなかで捉えることは、この分野がそれぞれの地域で固有の文脈を引き受けながら成立・展開してきたことについて考えることでもあります。日本でそれを考える場合は、「学祖」である柳田國男にこだわらずに日本の民俗学史を問い直すことにもつながるはずです。この課題にひとりで取り組むことには限界があるため、対話や共同作業のなかで少しずつ考えていきたいと考えています。
大学院授業で扱ってきたテーマ
民俗学が人類学、歴史学、社会学、地理学などの隣接分野とどのように重なり、どのようにずれているのかということを意識しながら、民俗学の視点や方法を理解してきました。民俗学の理論について考えるときには、民俗学史(特に柳田國男を中心とするような)から考えてしまいがちですが、むしろ私の授業では、できるだけ新しい研究動向を扱うことを基本的な方針としています。その前提で、「現代民俗学の出発点としての1990年代」「歴史研究と民俗誌」「民俗学における比較の視点」などを扱ってきました。一方で、国際的な学問分野としての民俗学を前提として考えていくために、海外の民俗学の著作を読むということも継続しておこなっています。私が東京大学に着任した2021年度Aセメスター以降、扱ってきた内容は以下の通りです。
・2021年度 アメリカ民俗学の基本的な視点
・2022年度 入門ゼミ(1990年代の日本民俗学)、現代ドイツ民俗学の基本文献、歴史研究と民俗誌
・2023年度 入門ゼミ(20世紀前半の日本民俗学)、比較民俗学再考、アートとパフォーマンス
・2024年度 入門ゼミ(民俗者はどのように考えるか)、経済の民俗学
進学を考えている方へ
私にとって民俗学とは、身近な生活をこれまでとは少しだけ違う形で見せてくれる学問です。民俗学者たちはこれまで、地理的な近しさにもかかわらず人が生きる形がこんなにも異なっているということを、具体的に、そしてできるだけ等身大の言葉で語ろうとしてきました。身近なところにいる様々な他者と出会い続けることで、私たちが住むこの世界の見え方がより豊かになっていくような経験が、この分野の魅力だと思っています。
研究指導の方針でもあり、私自身の研究のこだわりでもあることですが、フィールドのなかで考えるということがとても重要だと考えています。たとえば自分にとって馴染みの深い人たちについての研究をおこなう場合も、それを「私たち」の話としてすぐに一般化してしまうのではなく、あくまでも具体的などこかの誰かの話であることに強くこだわることで、人間についてのよりきめ細やかでより深い理解につながると思っています。民俗学の場合、研究者・研究対象・読者の3者が非常に近いものとして想像されることがあり、それに沿って概念や視点が彫琢されてきました。それはこの分野の特徴でもあります。その面白さと難しさを共有できたら嬉しいです。
研究テーマや対象については強く限定を設けていませんが、私は民俗学の最近の研究動向や、国際的な研究動向(特に北米やヨーロッパの民俗学理論)との対話をしながら研究をしたいと願っているので、そういった関心を少しでも共有できることを希望しています。また、民俗学を専門分野とする場合も文化人類学コースのなかで進めていくことになるので、ぜひ文化人類学コースの教員・院生とともに研究を鍛えていくことを前向きに考えてほしいと思っています。
主な仕事
当面はresearchmapをご覧ください。
【文化人類学研究室・教員関係ページ】
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進学を考えている人へ(全体)・・・教員スタッフからのメッセージ(「進学情報」セクション内)
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塚原 伸治 TSUKAHARA, Shinji [准教授]・・・本ページ
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