大学院授業[2021-Sセメスター]

箭内匡  アフェクトゥス論演習

アフェクトゥスの概念は、現代人類学において、また現代社会一般を考えるうえで、重要な役割を果たしうる概念である。このゼミでは、昨年末に刊行された『アフェクトゥス−−生の外側に触れる』(西井凉子・箭内匡編、京都大学学術出版会)に収められた諸論考を主要な素材としつつ議論を行う。


渡邊日日 講義:人類学的思考の軌跡

マリノフスキとラドクリフ=ブラウンが画期的な民族誌をそれぞれ出版し,医師でありイギリス社会人類学の先祖の一人でもあった(さらに,今から言えば医療人類学の父祖とも言える)リヴァーズが(旧世代が去っていくかのようにして)亡くなった,1922年が近代的・専門的な文化(社会)人類学の誕生の年だとすると(リーチが『社会人類学案内』28頁で述べたように),今年は百年祭の〈前夜祭〉ともいうべき年であり,祝祭ムードを準備しても良い年である。だが,諸要素が離合集散していく史的過程を想像すれば,かつ,ディシプリンもまた隣接の議論との相互腐食により生まれ変わりを繰り返していくことを考えれば,人類学的思考の系譜は他のディシプリンと同様,かなり長く考えられるべきであって,1922年は確かに重大な転換点だったとはいえ一つの通過点に過ぎない。本講義では,古代ギリシャから1960年代までの人類学的思考の軌跡を追い,直線的な学説史の凡庸さに陥らないように注意しながら,その特徴と強み(もちろん弱さも)を解説していく。その際,いわゆる研究の「方法論」にも留意する。


関谷雄一   現代アフリカ開発の諸相

本講座では、2000年代以降に出版された、現代アフリカ開発を取り扱った様々な民族誌を読みながら、それぞれに固有の問題や共通する課題について議論をしていく。都市と農村、ホームレス、ディアスポラ、参加型開発、小規模農民と商品作物栽培、地下資源収奪、国内避難民、開発と教育、開発と子ども、開発と映画、文化の商品化など、テーマはバラバラではあるが、現代アフリカ開発が人々や社会の間にもたらす経済的利益や恩恵だけではなく、周縁化や格差など、共通して出てくる問題についてどのような分析が可能かを検討していく。


津田浩司 アジアの文化人類学知

人類学を普遍的学知として位置づけるのではなく、当の学知が時代・社会等のコンテクストと密接に関わり合いながら生産・消費されていく様態への関心から、“world anthropologies”という視角が提唱されて久しい。

日本を含むアジア地域では歴史的に、優れた民族誌(人類学知をテクストとして固定化したもの)を生み出すフィールドとなってきたのみならず、植民地主義と多様な文化的伝統、国民国家体制の浸透と民族問題、開発主義と経済成長、グローバル化と人の移動など、様々な局面において人類学知が要請され、それに応じて展開(いわゆる御用学問として、あるいは抵抗のための学問として)が促されてきた側面が比較的見えやすく、また無視できない。

本講義では、アジア域内(東南アジアを中心に、東、および南アジアを含む)それぞれのコンテクストにおけるanthropologiesの伝統と展開の中で、いかなる実践と理論構築が模索されてきたかを、文献の講読を通じて批判的に検討する。


宮地隆廣 開発途上国を中心とする国家の政治学的分析の基礎

英語のテキストを読み、開発途上国を中心とする国家の政治学的分析における学術史的潮流を理解する。


名和克郎 人類学的集団範疇論入門〜南アジアを中心に

南アジアの事例を中心として、民族、カースト、親族集団、エスニシティ等に関する社会・文化人類学及び隣接諸学の様々な議論を整理しつつ紹介する。具体的には、親族、民族境界、カーストに関する古典的な社会人類学の議論、構造主義以降のカーストに関する議論の展開、植民地状況、国民国家、及び「先住民」等近年グローバルに流通する概念との関係といった問題を扱い、「民族」概念の有効性を巡る議論につなげたい。


藏本龍介 宗教と開発

宗教の伝統は開発実践に大きく貢献してきたが、開発研究はその役割を無視する傾向にあった。しかし2000年代以降、研究者(および政策立案者)の間で、宗教と開発との関わりについての関心が高まっている。こうした開発研究における「宗教的転回(religious turn)」は、世界各地で宗教の重要性が継続もしくは増加していることや、開発に対する既存のアプローチが効果的ではないと感じられてきたことなど、いくつかの相互に関連した要因によって説明できる。もちろん宗教は、暴力から性差別まで、さまざまな種類の不正を維持することにも関与している。いずれにしても、現代の開発を考える上で、宗教の伝統は極めて重要である。

こうした背景を踏まえこの授業では、関連文献の購読を通じて、宗教と開発研究・政策・実践の関係を理解するためのさまざまなアプローチについて理解を深めることを目的とする。具体的には、以下のような問題を取り扱う予定である。

・「宗教」と「開発」(およびその根底にある「世俗」)といった概念はどのように形成されたのか。両者の区別はどのように乗り越えられるか

・宗教と開発は、具体的にどのように関わっているか。たとえば、宗教的伝統は、開発実践をどのように形成してきたか。逆に、開発実践の展開は、宗教的伝統をどのように変容させているか。

・「宗教と開発」をテーマにした人類学的(民族誌的)研究とはどのようなものか

授業では、初めに教科書的な文献を用いて基本事項を確認した後、より細かい議論に入っていく予定である。文献リストはこちらで準備するが、受講生からの文献の提案も歓迎する。


森山工 教育=教化対象としての〈異人〉から社会的アクターとしての〈異人〉へ: 〈女性〉の場合

人類学や社会学においては、何らかの意味で通常社会の外部に位置すると見なされた〈異人〉を、教育=教化(éducation, instruction)の対象として設定し、教育=教化のプロセスによってそれを通常社会に同化、ないしは統合しようとするアプローチが存在してきた。これに対して、相対主義的、構築主義的アプローチが主流となるなかで、人類学や社会学は、そうした〈異人〉が通常社会と不断の相互作用・相互交渉を営む社会的アクター(acteur social)というべき存在者であると認識するようになってきた。本授業では、このように〈客体〉と見なされた〈異人〉が〈主体〉と見なされるにいたる学術的認識の転換を踏まえながら、〈異人〉像の変化について考察をおこなう。そうした〈異人〉は、〈移民〉であったり〈植民地現地民〉であったり〈外国人〉であったりと、多様な現れを見せるが、このセメスターでは、そうした〈異人〉として〈女性〉を取りあげる。


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